[1]主な出来事
3年半余も続くことになる新型コロナウイルス感染症による行動制限の最初の年だった。2009年春の新型インフルエンザ(H1N1型)によるパンデミック宣言で、フットボール界にも活動制限があったが、この新型コロナウイルス感染症による制約は、それをはるかに上回る期間と内容だった。困難な状況だったが、各方面や関係者の努力で、それぞれの組織や地区が工夫してできる限りの活動を行い、また伝統ある試合の開催も継続した。そして、シーズン終了後の翌2021年3月、ライスボウルを社会人チーム同士の対戦とすることが発表された。
●山梨県清里の清泉寮内の「日本アメリカンフットボールの殿堂」に第5回顕彰として以下の12人が選ばれ、殿堂入りした。これで殿堂顕彰は計48人になった。新たな殿堂顕彰者12人に1月3日の第74回ライスボウルの際に顕彰式典が開催された。
●新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、2月20日の厚生労働大臣の会見で長時間の会議などの自粛が求められたことを受け、日本協会は2月23日開催予定の「第23回日本アメリカンフットボール医・科学研究会」と「第16回ドクターとトレーナーの集い」の開催を急きょ中止とした。
●日本協会は6月12日、新型コロナウイルス感染症による行動制限の下で、活動再開に向けたプロトコルとチームで実施すべきことなどをまとめた「JAFAアメリカンフットボール活動再開に向けたガイドライン」を公表。続いて7月23日に、適切に競技活動が再開された場合において計画および実施される各種大会についての基本的な考え方や留意点をまとめた「JAFA大会再開に向けた留意事項」を公表した。
●秋季は練習や試合において手指消毒や密状態回避などの新型コロナ対策をしながら、リーグの分割などによる試合数の削減や無観客試合など、これまでにない競技運営を行った。
●フラッグフットボールが「学習指導要領」の本編にも掲載された。
●日本協会加盟チームは小学生など18、中学生など29、高校105、大学198、社会人55、その他(プライベート、フラッグ、女子など)24の合計429チーム。
[2]競技施設・装具・公式規則
◆公式規則
【この年の日本の主な規則変更】
●プレーヤーの番号に「0」が使用できるようになった。
[3]春季試合
◆春のボウルゲーム
●新型コロナウイルス感染症の影響で、例年開催されてきたパールボウルとグリーンボウルは中止となった。
[4]秋季試合
◆秋季試合(学生)
■関東(学生)
●関東大学リーグ1部は新型コロナウイルス感染症の流行で初めて無観客試合としてアミノバイタルフィールドを主会場に開催した。ただし、試合開催日と対戦カードは公表されたが、無観客試合のため会場は公表されなかった。
●関東学生連盟は、リーグ戦の開催方式を以下の通りとした。
・シーズン開始時期を遅らせ10月11日に開幕、8週間でシーズンを行う
・TOP8とBIG8は各8チームを4チームずつA、Bの2ブロックに分割。リーグ戦を行った後に同順位同士で順位決定戦を行う
・2部はAとBのブロックを抽選でさらに各2グループに分割し、各グループ4チームでリーグ戦を行う。順位決定戦は分割前のブロック内での対戦となる
・3部はAからDの各ブロックとも6チームによるトーナメントを行う
・この年を「特別なシーズン」と位置付け、翌年へ向けての順位付けと入れ替え戦は実施しない
●原則として無観客試合とするが、チームの最終戦に限ってチームが認めた100人以内の観客(学生の親族を想定)が観戦できることとした。TOP8は抽選によりAブロックが法大、中大、東大、日大、Bブロックは早大、明大、立大、桜美林大となった。
・AブロックはTOP8に復帰した日大と法大が第1節で対戦し、激しい点の取り合いとなった。日大は法大のTD、FGの直後の攻撃でTDを返すなど差を広げ、44-34で勝利した。その後も中大、東大に勝利してブロック1位に。2位は2勝1敗の法大で、3位は東大、4位は中大となった。
・Bブロックは早大が第1節でTOP8に昇格した桜美林大を9-6の接戦で下したが、部員の新型コロナウイルス感染症の陽性反応を受けて第2戦の立大戦は中止に。その後、桜美林大が立大と明大に連勝。桜美林大と明大が勝ち点で並んだが、直接対決で勝利した桜美林大がブロック1位となった。2位は明大、続いて早大、立大となった。
・1位決定戦の日大-桜美林は11月29日に開催。日大は2Q終盤、エースQB林大希(四年)が負傷したが、交代出場したQB小野祐亮(四年)が冷静に試合を進め、4QにRB川上理宇(四年)がTDを重ねて38-14で勝利。全日本大学選手権が中止となり、決勝の甲子園ボウルは以前の東西学生王座決定戦として開催されるため、日大が3年ぶり35回目の甲子園ボウル出場を決めた。3位決定戦は法大が明大を31-23で、5位決定戦は早大が東大を40-7で、7位決定戦は立大が中大を30-28でそれぞれ破った。
■関西(学生)
●関西学生リーグDiv.1は王子スタジアムを主会場として無観客で開催。
●関西は史上初のトーナメントを開催。シーズンは10月から開始となり、Div.1は10月17日に開幕した。
・Div.1の1回戦4試合は立命大が桃山学院大を36-3で、関大が京大を24-16で、関学大が同大を55-13で、神戸大が近大を15-10でそれぞれ破った。準決勝は立命大が関大に24-14で、関学大が神戸大に35-14でそれぞれ勝利。敗者同士のトーナメントも用意され、各チームが3試合を行うことができるよう配慮された。
・決勝は11月28日、万博記念競技場で関学大と立命大が対戦。立命大が1QにRB立川玄明(四年)の8ヤードTDランで先制し、関学大も2Q終了間際にQB奥野耕世(四年)からWR鈴木海斗(四年)への17ヤードTDパスで同点とし、前半を折り返した。
3Q開始早々、立命大はQB野沢研(三年)からWR木村和喜(四年)へ10ヤードTDパスでリードするが、関学大も必死な攻撃で敵陣に入り、K永田祥太郎(三年)の2つのFGで13-14と1点差に。さらに4Q、関学大は最後のシリーズで敵陣ゴール前に進み、残り3秒、最後のプレーで永田がFGを決め、16-14の劇的な逆転勝利を挙げた。大村和輝監督は就任1年目での優勝だった。
■各地区の活動/代表決定戦(学生)
東西以外の各地区も新人勧誘や練習、試合の開催に関して、これまでに経験のないほどの困難があった。各地区は実情に応じたリーグ運営を行い、シーズンを乗り切った。しかし、全日本大学選手権が中止となったため、他地区との交流はほとんどできなかった。
【北海道】 1部は6チームを2ブロックに分けたリーグ戦を行い、各ブロック1位の北大と北海学園大が優勝決定戦で対戦。北海学園大が21-14で勝利した。
【東北】 8チームによるトーナメントを開催したが、出場は5チームとなった。東北大が3試合を完封勝利し、リーグ史上3回目となる9連覇を達成した。
【東海】 1部は6チームによるトーナメントを開催。中京大と名城大の決勝は4Q終了時に0-0でタイブレーク方式の延長戦に突入。名城大がTDランで勝利し、20回目の優勝を遂げた。
【北陸】 加盟5チームのうち3チームが出場を辞退。1試合のみが新たに人工芝となった金沢市営競技場で開催された。その試合は福井県立大が金沢大を20-7で破った。
【中四国】 広島大、島根大、高知大の3チームでリーグ戦を開催。広島大がRB渡辺優士(三年)の活躍で2連覇を遂げた。
【九州】 6チームからなるブロックを2ブロック編成し、各ブロック1位の西南学院大と九大が対戦。九大が30-3で快勝し、15回目の優勝を遂げた。
◆秋季試合(社会人)
■Xリーグ・第1、2ステージ(社会人)
●Xリーグは富士通スタジアム川崎とMKタクシーフィールドエキスポを使用した。
●X1スーパーは開幕を10月24日とし、7チームを2ブロックに分け、各ブロック内でリーグ戦を行い、各1位がジャパンXボウルで戦う方式とした。X1エリアは東西に分けて開催し、東日本が8チームによる交流戦を、西日本が4チームによるトーナメントを実施した。
●X1スーパーのAブロックは富士通、エレコム神戸、IBM、ノジマ相模原で、Bブロックはオービック、パナソニック、東京ガスで編成した。
・Aブロックは富士通が3試合とも危なげなく勝利し、ジャパンXボウルに進出した。富士通は1試合平均41.0得点、9.0失点と突出した安定感があった。
・Bブロックは最終節でパナソニックとオービックの一騎打ちに。4Q、オービックはQBジミー・ロックレイからWR前田眞郷への36ヤードTDパスで35-34と逆転。パナソニックも残り4分からの攻撃で前進し、ゴール前1ヤードで第1ダウンを獲得。しかし、残り時間24秒、ファンブルをオービックLB成瀬圭汰にリカバーされて試合終了。オービックがジャパンXボウルに進んだ。
[5]秋季試合(ボウルゲーム)
◆第75回甲子園ボウル
●東西大学王座決定戦として行われた第75回甲子園ボウルは12月13日、甲子園球場で関学大と日大が対戦した。両校の対決は3年ぶり30回目。入場者にも制限を設けたため、観客は9,000人だった。
関学大は1Q、QB奥野耕世(四年)からWR梅津一馬(二年)への11ヤードTDパスで先制。日大もすぐさま反撃し、RB柴田健人(三年)の7ヤードTDランと、QB林大希(四年)からWR大通広志(四年)への4ヤードTDパスで14-7と逆転した。すると関学大は2Q、RB三宅昂輝(四年)とWR大村隼也(四年)のTDで再逆転し、前半を21-14とリードして折り返した。
関学大は3Qにも1TDを追加して28-14としたが、4Qに日大がRB川上理宇(四年)の78ヤードTDランで7点差に。しかし、関学大はその後2TDを追加し、42-24で勝利して3年連続31回目の優勝を果たした。甲子園ボウルでの対戦成績は関学大の11勝17敗2分。ミルズ杯は関学大のQB奥野が受賞した。
◆第34回日本社会人選手権・ジャパンXボウル
●第34回日本社会人選手権・ジャパンXボウルは12月15日、東京ドームでオービックと富士通が4年ぶりに対戦した。観客は6,113人。
オービックは1Q、DBブロンソン・ビーティーのインターセプトで得た攻撃で、RB李卓が1ヤードを中央突破してTDを挙げて先制すると、2Qにも李がTD。富士通はQBマイケル・バードソンからWR松井理己へのTDパスを成功させ、前半はオービックが13-7のリードで折り返した。
後半は守備戦となり、両チーム無得点のまま終盤へ。富士通は終了6秒前、ゴール前6ヤードからTDを狙うパスを投げたが、オービックのDE久保颯がカットして試合終了。オービックは7年ぶり9回目の優勝を果たした。MVPはラン21回で111ヤード、2TDを獲得したオービックのRB李卓が受賞した。
翌シーズンからライスボウルが社会人Xリーグの優勝決定戦となることから、ジャパンXボウルはこの年が最後となった。
◆第74回ライスボウル
●第74回ライスボウルは翌2021年1月3日、東京ドームで7年ぶり出場のオービックと3年連続で学生最多14回目の出場となる関学大が対戦。入場者も制限され、観客は日本選手権となってから最も少ない8,851人だった。また、チーム活動の制約で十分な体力や競技力に課題があることから、1Q15分の競技時間を今大会のみ1Q12分で実施した。
関学大は1Q、RB前田公昭(三年)の10ヤードTDランで先制。オービックもすぐに反撃し、RB望月麻樹のTDランとQBジミー・ロックレイからTEホールデン・ハフへのTDパスで逆転した。
関学大も2Q、RB三宅昂輝(四年)の84ヤードのTDランで12-14と2点差に迫ったが、後半はオービックがラン、パスを織り交ぜたプレーから3TDを挙げて突き放し、35-18で7年ぶり8回目の優勝を果たした。MVPのポール・ラッシュ杯はオービックのWR野崎貴宏が受賞した。
ライスボウルは日本フットボール50周年を記念して、それまでの学生東西オールスター戦を1984年の第37回大会から学生と社会人のチャンピオンチームが対戦する日本選手権として開催されてきた。しかし、所期の目的だった日本のフットボールの実力向上が図ることができてきたこと、また社会人と学生の力量差が大きくなってきたことから、この第74回大会で社会人と学生の対戦を終了することとなった。翌年の第75回大会からは社会人の王座決定戦として実施することになった。
この38年間の対戦は社会人の26勝、学生の12勝。最多優勝回数は学生が京大と日大の各4回、社会人はオービック(前身のリクルート含む)の8回だった。
[6]高校フットボールの活動
●高校も春季の試合は開催できず、秋の東京都大会は関東大会出場のベスト4が決まった後の準決勝、決勝を開催しなかった。関東では特別ルールとしてキックオフを行わず、リターンの権利を持つチームの自陣25ヤードから攻撃を開始。オンサイドキックを望む場合は自陣25ヤードから第4ダウン15ヤードでプレーを開始することなどを採用した。
◆秋季大会(高校)
■関東地区(高校)
●「全国高校選手権関東大会」決勝は11月23日、ともに東京代表の佼成学園高と足立学園高が対戦。佼成学園高は1Q、RB加嶋魁(三年)の14ヤードTDランで先制すると、加嶋がTDランで加点し、以降も得点を重ねた。足立学園高は4Q、QB星野秀太(二年)が自らのランで前進し敵陣に侵入し、最後はTE谷口智哉(三年)への23ヤードTDパスにつなげて反撃したが、佼成学園高が49-6で勝利した。
■関西地区(高校)
●「全国高校選手権関西大会」決勝は12月12日、王子スタジアムで関学高と大産大付高が対戦。関学高は1Q序盤、相手のファンブルから敵陣20ヤードで攻撃権を獲得。これをRB澤井尋(三年)の3ヤードTDランにつなげて先制すると、その後も2FG、1TDを加えて大きくリード。大産大付高は4Q残り1分にRB橋本龍人(二年)の1ヤードTDランで一矢報いたが、関学高が20-8で勝利した。
◆第51回全国高校選手権決勝・クリスマスボウル
●「第51回クリスマスボウル」は、5年連続出場の佼成学園高と4年ぶり26回目の出場となる関学高が王子スタジアムで対戦。4Q、関学高がTDを挙げて13-13の同点に。しかし、残り2秒で佼成学園高のQB近田力(三年)が敵陣44ヤードからヘイルメリーパスを投げると、エンドゾーンで佼成学園高のWR北川大智(三年)と関学高のDB礒田啓太郎(二年)が同時にキャッチ。公式規則により、パスをしたチームのキャッチとなり、佼成学園高が19-13で劇的勝利で2年ぶり4回目の全国制覇を果たした。
[7]フットボール・ファミリーの活動
◆小・中学生フットボール
●第8回日本中学生選手権は翌2021年1月11日、関東代表のジュニアシーガルズと関西代表の関学中学部ジュニアファイターズの対戦で行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染症の拡大時期と重なり、中止となった。
[8]海外・国際関連の活動
◆日本チームの活動(海外開催)
●もともと国際大会の開催予定が多く、日本は4大会に計5チームを派遣する準備を進めていたが、以下の3大会が中止となった。
●日本での新型コロナウイルス感染症の最初の感染確認から2か月後の3月、日本代表が米テキサス州フリスコに遠征し、ザ・スプリング・リーグ(TSL)選抜と対戦した。前年2019年に予定されていた世界選手権が延期となり、次回開催まで相当な年月があることから、日本代表のチーム力の向上や米国との試合の経験維持などの観点から行われたものだった。
TSLはNFLなどに選手を送り込むための育成リーグで、日本選手が参加していたことがある強豪リーグ。日本代表は藤田智ヘッドコーチ以下45人の選手(うち38人が代表初選出)で構成。日本代表は2015年7月の第5回世界選手権以来5年ぶりの試合となった。
試合は、日本のチームが初めて体験するNFLルールをベースに行われ、日本代表がFGで先制したものの、サイズやパワー、スピード、テクニックに勝るTSL選抜に2TDを許し、前半は3-13と劣勢。後半、日本代表も追い上げたが、16-36で敗れた。
●翌2021年2月に開催予定だったジュニア世代の国際試合、「インターナショナルボウル2021」も中止となった。